日本では現在、小学校の高学年から英語授業が取り入れられています。
しかしながら、多くの日本人は英語の読み書きはできても、話す、会話をするといったことが残念ながらできません。
英語の4技能である「話す」「書く」「聞く」「読む」は、従来の日本の学校による授業では偏った習得になるとの見方が一般的です。
特に話すと書くといったアウトプットにおいて、スキルが不足している方は多いでしょう。
そのような状況を打開すると考えられているのが「5ラウンドシステム」です。
この記事では、5ラウンドシステムとは何か、5ラウンドシステムの目的ややり方、5ラウンドシステムを継続させる方法と得られる効果などについて解説します。
英語力全体のスキルアップが可能な勉強方法を使い、どんな場面でも自信を持って英語を使えるようにしていきましょう。
目次
5ラウンドシステムとは
5ラウンドシステムとは英語の学習指導法のひとつで、2012年に横浜市立南高等学校附属中学校にいた英語教師によって考案されました。
1年間の英語授業の中で、1冊の教科書を「とにかく繰り返すこと」によって英語運用能力を身に着けます。
切り口を変えて5回、同じ教科書の内容を繰り返すことで、英語の4技能「話す」「書く」「聞く」「読む」にしっかりアプローチできる指導法です。
受けた生徒たちの英語力が各段に向上したことから、現在では5ラウンドシステムは全国に広がっています。
横浜市の公立中学校では、全5校で実施されるようになりました。
5ラウンドシステムの目的
5ラウンドシステムの目的は、自分の言葉で自分のことを英語で語れる生徒の育成です。
言葉を日本語ではなく英語に変えて、自分の意思や主張をスムーズに行えるようにします。
5ラウンドシステムのやり方
5ラウンドシステムでは、従来の英語授業のように、1学期は単元(Unit)の1と2、2学期は単元の3と4と5、といったようには進みません。
同じアプローチで1〜2カ月かけて、1冊の教科書を最後の単元まで終わらせます。
それを1回とし、その後はアプローチを変えて2回目、3回目、4回目、5回目と繰り返し、3学期の終わりには1冊の教科書を5回繰り返して学んだ状況にするのです。
各回数における内容は、次のように設定されています。
1回目:リスニングによる内容理解
2回目:内容理解した本文の音文字の一致
3回目:音読・単語確認
4回目:穴あき音読・文法理解
5回目:Retelling
それぞれの詳細をみていきましょう。
1回目:リスニングによる内容理解
最初は英語を聞き慣れるためにリスニングをおこないます。
音声を聞いて、教科書の物語の概要を理解していきます。
たとえば単元(Unit)が1〜8まである英語の教科書を使っている場合、1回目のリスニングでは2カ月ほどかけて最初の1から最後の8までを通して英語音声を聞きます。
生徒は耳から英文の内容を理解します。このレベルでは、大雑把に内容を理解することを目的とします。
2回目:内容理解した本文の音文字の一致
2巡目では音声を聞きながら自分で教科書の文字を読み、内容を確認していきます。
大まかに理解した教科書本文の音声情報と目で見た文字情報を「この音は文字で書くとこうなるのか」と、頭の中で一致させます。
教科書の内容がランダムに並んだワークシートを使い、生徒は耳で聴きとった英語の内容と同じ順番に英文を並べ替えていきます。
3回目:音読・単語確認
3巡目に入ってやっと音読です。教科書を自分で見て声に出して読み、何度も繰り返します。
ここで新出単語の書き出しを行い、意味を確認します。
4回目:穴あき音読・文法理解
4巡目では、本文の助動詞などが空欄になっているワークシートを使って音読します。
この回では、教科書本文に設けられた空所に必要な言葉や表現を自力で入れ込みながら、同時に音読もこなします。ここで文法理解を進めていきます。
5回目:Retelling(リテリング)
リテリングとは、内容を自分の言葉で説明するという勉強法です。
それまで4回にわたって頭に入れてきた情報を使い、教科書の内容を英語で説明します。
教科書の内容を暗記するのではなく、頭に入っている内容を自分の言葉で表現しながら説明するため、内容を自分の中へしっかり落とし込めるというのが特徴です。
5ラウンドシステムの継続
1年生で5回繰り返したら、その後は生徒の習熟度をみて回数を減らしたり、内容を再構築したりします。
5ラウンドシステムの目的のひとつは授業改善であるため、5回という回数にはこだわりません。
1冊の教科書を4回繰り返して終わらせることもありますし、学校によっては単元ごとに1〜5巡目をし、次の単元に行くというやり方をしているところもあります。
5ラウンドシステムの3つの効果
5ラウンドシステムの効果は、以下の3つが考えられます。
- 大まかな内容推測ができるようになる
- 正しい発音とリスニング力を得られる
- 英文のインプットとアウトプットに抵抗がなくなる
大まかな内容推測ができるようになる
5ラウンドシステムで何度も繰り返し同じ英文に触れることで、大まかな内容推測ができるようになります。
全体を繰り返して聞く内に、聴き取れない単語のことを気にせずわかる単語をひろい、まとまった文章の流れが推測できるのですね。
英文を聞いているときに何かひとつでも聴き取れない単語があると、それがひっかかって全体の内容がわからなくなってしまう方は大勢います。
しかし、これが母国語であれば、通常わからない単語はとりあえず無視し、全体の内容を聞いてから知らない言葉の意味を推測しているはずです。
同様に、英語も何度も繰り返し聞いていると、自分が知っている単語から何となく全体の内容が理解できるようになります。
正しい発音とリスニング力を得られる
全体を音声で聞いてから目で英文を確認するため、最初にインプットされるのは正しい発音です。そして、その後も繰り返して同じ英文を聞くために音を覚え、リスニング力が培われていきます。
何回聞いてもわからなかった単語なのに、文字にすると案外簡単で驚いたことがあるという経験を持つ方は多いでしょう。それは多くの場合、英語のリンキングになじみがないことが原因です。
英語では単語をはっきりとひとつずつ区別して発音することは少なく、前後の音をつなぎ合わせリンキングして話します。音がくっつくことで自分が勉強した単語とは別物のような音になるため、音声だけで聞くときには、単語ごとの意味を理解しにくくなります。
たとえばget up(起きる)という単語の場合、英語話者は「t」と「u」をつなげるため「ゲット アップ」ではなく「ゲㇻップ」といったように聞こえます。
最初に音声で「ゲㇻップ」と聞いていた生徒は、そこでは意味がわかりませんでした。しかし2巡目で、それは自分が知っている単語の「get up」だったとわかり、聞いたものと見たものがそこで一致して、正しい発音でインプットされるのです。
英文のインプットとアウトプットに抵抗がなくなる
ひとつの教材をリスニング、黙読、音読、ライティング、スピーキングと異なるアプローチで何度も学ぶため、5回の繰り返しが終わるころには英文への抵抗が少なくなっていきます。
自然に英文が頭に入っており、英語を使って自分の言葉で考えられるようになるのです。
5ラウンドシステムは画期的な英語指導方法
5ラウンドシステムは画期的な英語指導方法として、全国にひろまりつつあります。
テキストの丸暗記、そして単語や文法の丸暗記といった従来の英語勉強法ではなく、リスニングや音読、会話などでアプローチを変えて英文に接するため、自然に単語や文法を理解できるようになるのです。
ぜひ5ラウンドシステムにトライしてみましょう。英語で自分の考えを話せるようになると、会話ができる相手が世界中に広がりますよ。
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