学校に通わず、自宅やその地域を学習の拠点とするスタイルを「ホームスクーリング(ホームエデュケーション)」と呼びます。こちらは日本でいうところの「不登校」とは少々異なりますが、まだ国内ではあまり認知が広がっておらず、具体的にどのようなものかを知らない方も多いでしょう。
そのため、この記事ではホームスクーリングとは何か、どのようなスタイルが現在日本国内で利用されているか、そのメリットなどを紹介します。
ホームスクーリングとは?
ホームスクーリングは「学校に通わず(もしくは時には登校もしながら)自宅や地域を拠点として学習するスタイル」のことで、ホームエデュケーション(自宅ベース教育)とも呼ばれます。
日本における義務教育は、決められた地域の学校もしくは受験した私立の学校で、小学校6年間、中学校3年間通うことが一般的です。しかし、諸外国では教育を受ける場は学校だけでなく、家庭も選択肢にあります。
そのため、ホームスクーリングは日本における「不登校」と必ずしもイコールの関係ではありません。ホームスクーリングを選択する場合、親の意思によって子どもを学校へ行かせないわけではなく、子どもは自分の意思によって学校に行ったり行かなかったりします。
学校が教育を提供する唯一の手段ではなく、家庭学習もひとつの手段という認識です。したがって、家庭学習が国によって認められている諸外国(アメリカ、イギリス、フランス、ギリシャなど)では、社会的認知度も高く、ホームスクーリングは珍しいものではありません。
日本におけるホームスクーリングの立ち位置
ホームスクーリングは日本において「違憲」ではありませんが「合憲」とも明記されていない状態です。つまり、「ダメ」とは言われませんし禁止でもありませんが、推奨もできないという扱いですね。
そもそも日本では子どもが教育を受ける場の選択肢に家庭が含まれていないため、現在は不登校と同じくくりにされています。
日本における不登校は、次の2つに大別されます。
- 積極的不登校:子どもたちが自分の意思で学校へ行かないと選択している状態
- 消極的不登校:引きこもりや無気力、家庭の問題などさまざまなことが原因で、子どもたちが通学を望んでいてもできない状態
この2つの内、ホームスクーリングは多くの場合に「積極的不登校」で選択されます。子ども自らが学校には行かないと決め、親が家庭内で教育を行うために環境を整えるのです。
消極的不登校とは違い、子どもたちは学校への登校を前提としていないことが多いため、登校しないことによる罪悪感や劣等感、自己否定などは生じにくくなっています。
日本国内で利用されているホームスクーリングの種類
ホームスクーリングにはさまざまなスタイルがありますが、現在日本国内で利用されているホームスクーリングは以下の4つです。
とは言え、家庭や支援している施設によって内容や方法は多様化しているため、紹介する内容はあくまでも一例であるとお知り置きください。
- School at home(スクールアットホーム)
- Learning at Home(ラーニングアットホーム)
- UnschoolingNatural Learning(アンスクーリング)
- Relax/Eclectic Homeschooling(エレクティックホームスクール)
School at home(スクールアットホーム)
学校で行うことを家庭で行うといったスタイルのことです。
学校と同じく日々の時間割を決めて教科書を使いながら、学校で習うことを親が教員代わりになって義務教育課程を担います。原則的に「家庭が校舎の代わり」「親が教師の代わり」という仕組みを取るため、物理的な問題(通学距離や登校手段の有無など)があり通学が困難な家庭で取り組まれることが多いスタイルです。
日や教科によっては学校へ行ったり塾やフリースクール、家庭教師などを利用したりするケースもあります。
Learning at Home(ラーニングアットホーム)
スクールアットホームと基本的には同じですが、こちらは「まんべんなく教科を勉強する」のではなく、「得意なこと」や「好きなもの」に時間を大きく割くことが特徴です。そのため必ずしも教科書の進度にはこだわらず、子どもが「できないこと」や「興味が薄い科目」は飛ばすケースもあります。
通信教育なども使い、自分がはっきりと目的を持って学ぶものを選ぶスタイルです。
Unschooling/Natural Learning(アンスクーリング)
子どもの興味や自主性に基づいて学習を行うスタイルです。
育成方針はありますが保護者からの指示はなく、生活や遊びの中で感じたことや不思議に思ったことを大人が一緒に調べ、答えなどを導き出します。
ただし、子どもを自由に過ごさせていることで社会から教育放棄と見られるリスクがあるため、特に日本においては高難易度のホームスクーリングスタイルと言えるでしょう。
Relax/Eclectic Homeschooling(エレクティックホームスクール)
スクールアットホームとアンスクーリングのハイブリッド型スタイルです。
エレクティックホームスクールは、アンスクーリングほど子どもに委ねず、スクールアットホームよりもカリキュラムやスケジュールを持ちません。ほどほどに自由ではありますが、子どもが自分で勉強をできるようになるまでは大人が指導します。
たとえば、小学生の低学年であれば基礎学力のためにスクールアットホーム寄りの指導をしますが、自学の姿勢ができるに従って自由度を加える方法です。現在のアメリカのホームスクーリングでは、このスタイルがよく取り入れられています。
ホームスクーリングのメリット
ホームスクーリングをすることによる代表的なメリットは以下の3つが考えられます。
- 子どもに応じた教育ができる
- 子どもの意欲が増し主体的に動けるようになる
- 子どもへのストレスが少ない
子どもに応じた教育ができる
日本の学校教育は、学びの場としては非常に機能的かつ効率的です。専門知識を持つ大人がカリキュラムに沿って指導するうえに、施設や設備が充実しているからですね。
しかしながら、1クラス30人程度の子どもを教員1人で担当するなど、子どもに応じた教育の実施は難しいことが課題として挙げられます。対してホームスクーリングでは、子どもの特性やペースに合わせた教育が可能です。
子どもの意欲が増し主体的に動けるようになる
まんべんなく学習することで興味のある・ないにかかわらず、知識を得られるのが学校教育の良い面ですが、子どもの「したい」気持ちは優先しにくいもの。しかしホームスクーリングであれば子どもの得意を追及でき、個性や能力を伸ばせます。
本人の「したい」を選べることから「させられている」をなくせるため、子どもの意欲が増します。
子どもへのストレスが少ない
学級崩壊や不良行為などから子どもを遠ざけられ、子どもに適している、必要だと思える環境を設定できます。そのため、子どもが感じるストレスはかなり少なくなるでしょう。
ただし、このメリットはデメリットにもなります。学校に通うことで多様な人とのコミュニケーションを取る機会がありますが、家庭学習においては限られた相手とのコミュニケーションになりがちです。
コミュニケーション能力は社会生活において必須のスキルであるため、ホームスクーリングではそれをカバーする努力が必要です。
ホームスクーリングは家庭や地域を拠点として学ぶ形態のこと
学校に通うのではなく、家庭や地域を基盤として学習を行うスタイルをホームスクーリングと呼びます。日本ではまだ一般的ではありませんが、アメリカやイギリスでは合法で、学習方法の選択肢のひとつとして受け入れられています。
日本においてはまだまだ認知・支援制度など課題が多くありますが、徐々に広まりつつある学習スタイルです。日本でも、選択肢のひとつとして認められる日はそう遠くないかもしれません。
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