日本は国際競争力が年々低下していると言われるうえに、深刻な少子高齢化社会です。今までと同じようには物事が進まなくなり、このままでは社会制度の崩壊もあるかもしれないと危惧される中、注目を浴びているのが「アントレプレナーシップ」です。
アントレプレナーシップを発揮できる人材をより多く育てることが、国際社会で日本は先進国と言われるための鍵と言われています。しかしそのためには幼少期からの教育を見直す必要があ流とも言われており、今の日本の教育は転換期を迎えているのかもしれません。
この記事ではアントレプレナーシップとは何か、既に教育に取り入れているフィンランドではどのようなことを行っているのか、また、教育によって得られるスキルや日本の現状について、順番に紹介します。
目次
フィンランドの教育現場で取り入れられるアントレプレナーシップとは?
アントレプレナーシップは日本語では「起業家精神」と訳されますが、実際には新しい事業を創造し、リスクに挑戦する姿勢のことを指す言葉です。
国民の幸福度と共に、教育においても世界トップレベルとされるフィンランドでは、1994年に改定された学習指導要領からアントレプレナーシップが示されるようになりました。そこから読み取れるのは「教育において重要視されていることは、競争ではなく自ら学ぶ力を育むこと」です。新しいことに挑戦し、何が起きても自分で事業を起こして生活できる力を習得することを目指しています。
フィンランドではさまざまなプログラムが実施されていますが、その中から例として次の2つを紹介しましょう。
- Me&MyCity(ミー・アンド・マイシティ)
- 小さな起業家 若き起業家
Me&MyCity(ミー・アンド・マイシティ)
Me&MyCityは、2010年よりフィンランドの学校の8割以上でクラス教員によって実施されているプログラムです。誰でも参加できるわけではなく、毎年小学校6年生と9年生(日本の中学3年生相当)に参加資格があります。
プログラムでは、企業や病院、商店などが設置された屋内のミニチュア都市の会場の中で、仕事・生活・経済などの経験を疑似体験できます。たとえば履歴書の作成や契約の締結などが体験できるほか、選挙に参加したり銀行から融資を受けたりなども実際に経験できます。
小さな起業家 若き起業家
「小さな起業家 若き起業家」はNPOが運営するサービスです。自分たちで実際に会社を作り、ビジネスコンテストに応募する「起業体験」ができます。リアルな流れを体験できるため、起業することに対する壁をなくせるプログラムですね。
ただし、こちらは選択プログラムとして提供されているため、通う学校が導入していなければ受けられません。
アントレプレナーシップ教育で得られる起業家精神・能力・スキル
アントレプレナーシップ教育で得られるのは、起業家に必要とされる以下の精神や資質、能力です。
- チャレンジ精神
- 創造性
- 探求心
- 情報収集能力
- 情報分析能力
- 判断力
- 実行力
- リーダーシップ
- コミュニケーション能力
など
失敗を恐れず、自らが気になったこと・興味があることで起業をし、新しいことを発見したり開発したりする能力を育てるため、社会がどのような状態になっても生き抜く力を育めるとしています。
日本のアントレプレナーシップランクは低い
文部科学省の出した資料によると、日本は諸外国に比べアントレプレナーシップに係る各種指標が相対的に低いとされています。
2019年に発表された下の図では、137ヶ国の調査でアントレプレナーシップレベルの順位を出したところ、日本は26位でした。G7主要国の中では下から2番目の6位という順位につけています。
画像出典:Global Entrepreneurship Index2019 「The Global Entrepreneurship Index Rank of All Countries, 2019」
その理由はいくつかありますが、大きな要因は以下の3つが考えられます。
- 失敗に対する不安
- 身近にローモデルがいない
- 学校教育
要因①:失敗に対する不安
日本は協調性を重んじているため同調圧力が強く、恥の文化を持つ国です。そのため、幼少時から間違えや失敗を恥ずかしいことと指摘された経験を持つ方も多いでしょう。落ち着きや慎重さを習得できる半面、新しいことに飛び込む勇気を持ちにくくなるうえに、周囲からも挑戦をすすめられにくい文化と言えます。
要因②:身近にローモデルがいない
戦後、高度経済成長により経済大国にまで上り詰めた日本では、終身雇用制度が確立しました。そして、子の安定を願う親心から、良い大学に進学し、良い会社に就職することこそが幸せであるという風潮が広がります。
そのため、わが子が起業することを将来への不安から反対してしまう親も多く、身近に起業家というローモデルがほとんど見当たりません。つまり、日本の子どもにとっては起業するということに関して実感しにくい状況でもあるのです。
要因③:学校教育
日本の義務教育では「周囲と合わせること」と「個人の能力開発」に重きを置いています。いわゆる「ゆとり教育」は終了しましたが、依然、他人と協力しながら新しい事業を始めたり、課題を主体的に解決して事業をすすめたりといった経験をする機会は少ないと言えるでしょう。
日本人は主張性が低く、意見を言うことが苦手な子が多いようです。人の気持ちを尊重するため、欧米人と比較すると「消極的」とか「自己肯定感が低い」などとも言われています。しかし、今後はますますグローバル化が進んでいくでしょう。日本の学校教育では大きな変革が求められているのかもしれません。
アントレプレナーシップを育む2つの教育段階
アントレプレナーシップ教育には、以下2つの段階があります。
- 醸成段階
- 発揮段階
醸成段階
醸成段階では、不確実性の高い環境下でも自分が持っている能力を超えてチャンスを追及し、未来創造や課題解決に向けた行動を起こすための精神と態度を学びます。そのうえで学生は、自分が持つアイデアの実現に向けてどうすればいいかの方法を考え、実行していきます。
発揮段階
発揮段階では、学生は学習・研究した成果の活用に動きます。
機関がスモールビジネスや地域が持つ課題の解決などに向け、実際に事業を進めるにあたって必要な知識や機会を提供し、学生は具体的な行動を開始します。
文部科学省が行う次世代アントレプレナーシップ育成事業について
日本でのアントレプレナーシップ教育が進んでいないことを受け、文部科学省では「次世代アントレプレナー育成事業(EDGE-NEXT)」を通じ、複数の大学が連携した共同事業体に対し、アントレプレナー育成のための支援を行っています。
目的は、日本のベンチャー創出力の強化です。具体的には実践プログラムの開発や、そのために必要なネットワークの構築・体制整備などを支援して醸成を促しています。
ちなみに、2017年〜2020年度でのプログラム参加者は延べ約38,600人、起業件数は135件でした。
参考:文部科学省「アントレプレナーシップ教育の現状について」
アントレプレナーシップ教育は広がりつつある
日本がこれからの世界でも先進国と言われるためには、アントレプレナーシップ教育を受けた「急激な変化に対応し、社会に新たな価値を生み出す人材」が必要です。
日本のアントレプレナーシップ教育は諸外国に比べ遅れてはいますが、国は教育を進めるべくさまざまな支援を始めています。文部科学省の指導要領にアントレプレナーシップの育成が明記される日も、近づいていると言えるでしょう。
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