大人でも子どもでも、褒められると嬉しいものです。子どもや部下の成長を促したいとき、褒めて伸ばすやり方が効果的であることは、よく知られていますよね。
しかし、ただ褒めればよいというわけではありません。褒め方を間違えると、子どもや部下に対して逆効果になることもあるのです。
この記事では褒めることによる3つの効果や、過程を褒めて伸ばすことがなぜよしとされているのかの理由、そしてダメな褒め方と注意点について解説します。
目次
「褒める」ことによる3つの効果
褒めることによって得られる効果は、以下の3つが考えられます。
- 自信ややる気を引き起こす
- 失敗を恐れないようになる
- 人間関係が良好になる
自信ややる気を引き起こす
人間は、期待されることによって成長が高まります。これは「ピグマリオン効果」と呼ばれるもので、教師が生徒を褒めるとその生徒の成績が伸びるという例が代表的です。
褒められるとその人間は自己肯定感が増すため、自信が出てきてやる気も引き起こされます。
失敗を恐れないようになる
褒められることは「自分はできる」という自信を育てることになり、自分の気持ちや行動をポジティブに変化させられます。
その結果、失敗しても前向きな態度が保てるうえに、挫折の経験からいろいろと学び取ろうとするようになります。失敗そのものを恐れないため、何度も挑戦する精神が養われます。
▼失敗を恐れない子どもの主体性を育む方法は以下の記事で解説しています
人間関係が良好になる
褒められると、人の頭の中ではドーパミンというホルモンが分泌されます。ドーパミンは意欲や快楽に関する神経伝達物質で、快感ホルモンと呼ばれるもの。分泌されることで気分が高まり、幸せで嬉しい気持ちになれます。
褒められたことにより気持ちが安らぎ、褒めてくれた相手に対する信頼感が自然に高まる結果、良好な人間関係につながるのです。
▼スキンシップによる人間関係の向上について以下で解説しています
効果的な褒め方は「過程を褒める」こと
褒め方には良し悪しがあり、ただ闇雲に褒めればよいというものではありません。誉め言葉がお世辞だと思われると、返って信頼ややる気を損なうことになります。
大切なのは「過程を褒める」こと。相手の能力や才能を褒めるのではなく、努力や姿勢を褒めるようにしましょう。
1990年代にコロンビア大学で行われた「褒め方」の有名な実験があります。小学生400人を対象として、簡単なIQテストを行い、その結果の伝え方を3パターンに分けてその後の反応を見るというものでした。
- 結果や知能を褒めた(こんな点数が取れるなんて頭がよい、あなたは賢い、など)
- 結果だけを伝えて特に褒めなかった(○点でした)
- 頑張りや努力を褒めた(一生懸命やったらか○点も取れたんだね、など)
そして2回目のテストでは、それぞれ「1回目のテストより難易度が高い問題」と「1回目のテストと同じくらい簡単な問題」を選ばせました。その結果は以下の通りです。
難易度が高い問題 | 同じ程度の問題 | |
能力や結果を褒められたグループ | 35% | 65% |
何も褒めなかったグループ | 55% | 45% |
頑張りや努力を褒められたグループ | 90% | 10% |
頑張りや努力といった「過程」を褒められたグループは、9割の生徒が難易度の高い問題を選択しました。
実験を行ったミューラー氏とデュエック氏は、この結果を見て「能力や結果を褒められると気分は良くなるが、失敗を恐れる気持ちも生まれる」と指摘しています。
才能や能力を褒められると、次に失敗したら前の評価が下がってしまうのではないかという恐れの気持ちから、チャレンジしにくくなるのですね。失敗したときに自分を否定された気持ちになることを避けるため、自己保身に走る傾向があります。
しかし、頑張りや努力を褒められることは「行動」に対する肯定であるため、仮に失敗しても「自分がダメなのではなく努力が足りなかったのだ」と理解し、またチャレンジしようとします。次はさらに努力をして、挑戦を成功させようとするのです。
参考:「Praise for intelligence can undermine children’s motivation and performance.」
参考:Unipos HRコラム「マネジメントは「叱る」より「褒める」が効果あり!その根拠とすぐ使える効果的な褒め方」
ダメな褒め方と注意点
以下の4つは、ダメな褒め方です。注意点とともに確認していきましょう。
- 何でも褒めようとしない
- 過剰に褒めない
- 他者と比較して褒めない
- 利己的な理由で褒めない
何でも褒めようとしない
子どもでも部下でも、何でも褒めるようにしてしまうと過剰に自己を評価するようになって尊大な態度を取ったり、逆に不信感をもたれてバカにしてきたりすることがあります。
また、褒められる快感に慣れて外部からの評価に依存し、自力でモチベーションを上げられなくなることもあるでしょう。周囲から褒められることで意欲を持続させてきたため、自分で「やってみたい」や「挑戦したい」といった感情が引き出せなくなります。
過剰に褒めない
「他の人とは格が違いますね!」や「天才だ!」といった過剰な誉め言葉は、口先だけでおだてていると感じ、警戒心を持たれてしまいます。
悪気はなくともオーバーな表現で褒めないようにしましょう。何度も同じ言葉を繰り返すことも同様です。
他者と比較して褒めない
「あの人(子)はこんなこともできないのに、あなたは素晴らしいね」といったような、他人と比べたうえでの誉め言葉は、本当の意味での誉め言葉ではありません。相手も気持ちよくはならない、NGな褒め方です。
もし比較するなら、相手の過去と現在を比べて評価するようにしてください。その場合は「成長を認める」ことになるため、相手も素直に嬉しいと感じるはずです。
利己的な理由で褒めない
子どもや部下の成長を促すためではなく、自分に都合よく相手をコントロールする目的で褒めることはやめましょう。
褒める基準をころころと変えたり、自分の利益のために誉め言葉を使う態度は、すぐに人に伝わります。
「褒める」だけでなく「叱る」も同時に行おう
解説してきたように、褒められることによって受けるメリットは豊富です。
ただし、褒められるだけでは真っ直ぐに成長するかどうかはわかりません。
人を成長させたいと考える際に忘れてはならないのは「褒める」と同じく「叱る」ことです。
褒めると叱るは真逆の行動に思えますが、どちらもその本質は同じこと。
褒めるのは、よい行動を定着させたいからですよね。そして叱るのは、悪い行動を改めさせたいからです。
それぞれの目的は異なりますが、根底にあるものは「人として真っ直ぐに成長し、自己肯定感を適切に上げて自力で人生を切り開ける人間になること」ではないでしょうか。
怒鳴ったり頭ごなしに怒ったりすることはよいとは言えませんが、相手に欠点や改善点を自覚させたい場合の「叱る」は悪ではありません。
人に迷惑をかけたときや命が危険にさらされたとき、悪意を持って他人を傷つけたときなどは、しっかりと叱るべきです。
相手の成長を望むなら、良いところは褒め、悪いところは叱るようにしましょう。
▼子どもへの叱り方を以下の記事でも詳しく解説しています
褒める効果は絶大! 適切な褒め方で効果的に人を伸ばそう
「褒める」という行為は相手の自己肯定感を上げ、自信を持たせて物事に挑戦するモチベーションを高めます。
ただし、褒め方を間違えると逆効果になってしまうため、褒める内容やタイミング、使う言葉などは注意して選ぶようにしましょう。
そして、褒める際にはできるだけ「過程」にフォーカスして褒めるようにしてください。自分の才能や結果ばかりを褒められると、多くの場合に人は傲慢になり、新しい挑戦や努力をしなくなってしまいます。
今回紹介したポイントを参考にして、「褒める」技術を磨いてみましょう。相手だけでなく、自分の成長にもつながりますよ。
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