この記事でわかること
- 学力と運動の関係について
- 運動が学力にどの様に寄与するのか
- 学力を高めるための運動習慣
「勉強も運動もできる子はすごいけれど、そのどちらかだけでもいいから得意な子どもに育ってほしい!」と我が子に、期待する親御様は少なくありません。
しかし、アスリートやスポーツ選手など、運動で優秀な人の多くは勉強もよくできることをご存じでしょうか。
実は最近の研究で、彼らが文武両道であるのは、幼少時からの運動経験が影響しているということがわかっており、子どもの学力と運動にも相関関係があります。
この記事では、子どもの知力は体力に影響するとされる理由、運動が学力に影響する理由、そして子どもの運動能力が伸びる時期や、運動能力と学力を高めるために普段の習慣にしたいことなどを解説します。
目次
子どもの知力は「学習時間」ではなく「体力」
スウェーデンの精神科医で、世界の脳科学知見を「一流の頭脳」という著書にまとめたアンダース・ハンセン氏によると、「子どもの知力は机に座って問題を解かせるだけでは決して学力を上げることはできない」そうです。
スウェーデンの小学校を使って行われた実験では、通常通りに週に2回体育をするクラスと、毎日体育をするクラスに分けて比較しました。
その結果、算数・国語・英語において体育の回数が多いクラスの方が明らかに成績が高くなりました。さらに男女とも、何年もその効果が続くことが確認されたそうです。
アメリカでも同様の調査を250人の子どもを使って行いましたが、同じ結果になっています。
この際、生徒たちの心肺機能や筋力、敏捷性を計測した結果、特に体力がある子ほどテストにおいて高い数字が取れたことが判明しました。
ただし、肥満気味の生徒の場合は、体重が重ければ重いほど試験の得点も低い傾向にありました。
体育の時間が子どもの学力向上を押し上げた理由としては、脳の海馬の成長が挙げられています。海馬は記憶中枢であり、運動によって刺激を受けると成長すると判明しています。
実際に10歳児の脳をMRIでスキャンすると、体力がある子どもの海馬は体力がない子どもと比較して、海馬のサイズが大きいという結果が出ました。
ただし、知能と相関関係にあるのは「持久力」であって「筋力」ではありませんでした。
そのため、筋力テストの点数だけがよい人は、学習において特に優秀というわけではないようです。
参考:東洋経済オンライン「子どもの学力と体力の知られざる深い関係」
参考:「一流の頭脳」アンダース・ハンセン、御船由美子 2018 サンマーク出版
運動が学力向上に影響する理由
運動が子どもの学力向上に影響する理由をみていきましょう。
刺激を受けた海馬が成長する以外の理由としては、次のものが考えられます。
運動が学力向上に影響する理由
- 体幹や筋肉が鍛えられ正しい姿勢を保てる
- ドーパミンが分泌され集中力が高まる
- 脳の認知機能が高まる
体幹や筋肉が鍛えられ正しい姿勢を保てる
運動をすることによって自然に体幹や全身の筋肉が鍛えられ、勉強する際に良い姿勢をキープできるようになります。
そもそも椅子にずっと座っていられる、正しい姿勢を取り続けられるというのは、筋肉がついているからこそできることです。
持久力や筋力が足りない子は正しい姿勢を保っておれず、姿勢が悪くなることで呼吸も浅くなるため、余計に集中力をなくすという悪循環に見舞われます。
正しい姿勢がキープできる持久力や忍耐力が養われていると、呼吸が深くできるため脳も活性化しやすくなり、思考力が高まります。
ドーパミンが分泌され集中力が高まる
運動をすると脳が刺激され、さまざまな物質が分泌されますが、脳を活性化させる「ドーパミン」もそのひとつです。
ドーパミンは、運動後に分泌量が増えると判明しています。
ドーパミンが増えると感覚が研ぎ澄まされ、集中できる時間が長くなるため、学校の授業についていきやすくなると考えられます。
脳の認知機能が高まる
運動によって、理解力や判断力といった脳の認知機能が高まります。
たとえばボール遊びでは、ボールをどのくらいの力で投げるとどのくらいの距離を飛ぶか、人や物に当てないためのボールを飛ばす方向、速度などを頭の中で計算しながら遊ぶことになります。
繰り返し遊んでいる内に、相当な理解力や判断力が鍛えられるのです。また、運動をすることで「コーディネーション能力」が鍛えられます。
コーディネーション能力とは、目で見て頭で考えて判断し、体を使い力を出して実行するという一連の動作がスムーズ連動させる能力のことです。
このコーディネーション能力が運動という一連の動作によって鍛えられるに従って、認知機能が高まり、学習面でも発揮されます。
▼コーディネーショントレーニングについては以下の記事で詳しく解説しています。
子どもの運動能力が伸びる時期は0歳から10歳まで
運動能力にかかわる神経は、乳幼児から学童期にかけて急速に成長します。
具体的には、4歳前後で成人のおよそ80%、10歳前後ではおよそ95%に及びます。
そのためこの時期の子どもは運動動作などを吸収しやすい時期であり、運動能力が伸びる「ゴールデンエイジ」という、一生に一度の機会と考えられています。
ゴールデンエイジの年齢
- プレゴールデンエイジ:おおよそ5歳から9歳ごろ
- ゴールデンエイジ:おおよそ9歳から12歳ごろ
ゴールデンエイジに運動習慣を身に着けさせ、体を動かすことは面白いと感じさせることで、運動能力と学習能力をバランスよく育めます。
そのためおすすめなのは、5歳児までは家族で体を動かして思いっきり遊ぶことを大切にし、その後は子どもの興味に合わせて体を動かす習い事を検討してみることです。
ただし、何であっても始めるのが遅すぎるということはありません。
既に子どもさんが10歳を過ぎていても、本人が興味を持つ運動がある場合は、ぜひ体験させてみましょう。
▼ゴールデンエイジについては以下の記事で詳しく解説しています。
運動や学習を親が強制しないようにする
大切なことは、親が運動や学習を強制しないことです。人は命令されることにストレスを感じます。
子どもの自主性や主体性を育むためにも、自分で考えて行動させることが大切です。
まずは選択肢を与え、子どもが興味を持つか見守るようにしましょう。
▼自主性と主体性については以下の記事で詳しく解説しています。
運動能力と学力を高めるための習慣
運動能力と学力を高めるための習慣化したいのは次の2つです。
運動能力と学力を高めるための習慣化したいこと
- 朝食を食べる
- 睡眠時間を十分確保する
朝食を食べる
「運動や勉強が得意な子は朝食を食べる」という、文部科学省による小学生対象の調査結果があります。
また、スポーツ庁が小学生と中学生を対象に行った朝食と体力の関連性を調べる調査でも、朝食を食べている子どもほど体力合計点が高かったという結果でした。
画像出典:農林水産省「1 食に関する子供の基本的な生活習慣の状況」
人間は朝食で脳のエネルギー補給をしていますが、成長期の子どもの脳は大人の倍ほどのブドウ糖(糖質からのエネルギー)を必要としています。
そのため、朝食を抜くと脳がエネルギー不足になり、勉強に集中しにくくなります。
睡眠時間を十分確保する
人は寝ている間に成長ホルモンを分泌し、免疫力を高め、筋肉を増やし、骨を形成し、脳を休ませて集中力や意欲を向上させています。
特に成長期の子どもにとって、睡眠時間の確保は必須事項です。
厚生労働省の「健康づくりのための睡眠指針の改訂に関する検討会」(2023年10月2日)によると、子どもの理想的な睡眠時間は以下の通りです。
子どもの理想的な睡眠時間
- 1~2歳:11~14時間
- 3~5歳:10~13時間
- 小学生:9~12時間
- 中学・高校生:8~10時間
忙しい現代の子どもがこの通りの睡眠時間を確保することは困難かもしれません。しかし、意識的に睡眠を優先しようとするだけでも生活は変わってくるでしょう。
参考:厚生労働省「健康づくりのための睡眠ガイド2023(案)」
子どもの運動は学力と大きく関わっている! 体を楽しく動かそう
子どものころから運動を楽しみしっかり体を動かしていると、それに伴って自然に学力も向上することが、さまざまな研究結果から判明しています。
親が強制することはNGですが、休日は鬼ごっこやかくれんぼなどを家族で楽しむようにし、体を動かす楽しさを教えることから始めてみてください。
そして本人が興味を持つ運動があれば、ぜひ体験させてみましょう。
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